ニューヨークの愛される日本人ピアニスト
アトランタのジョージアテック附属英語コースにいたとき、十日間の休みを利用してグレイハウンドバスでニューヨークに遊びに行きました。途中ワシントンで突然の雨に困っているとき、カサをさしかけてくれた親切な人と出会いました。
メイン州に住んでいるというその人は、「ニューヨークに行って困ったことがあれば、ここに電話をするといい。友達のピアニストで、とてもいい人だから」と言って、電話番号を書いた紙をくれました。たった五分間の知り合いなのに、親切なこと。
ニューヨークにバスが到着して驚きました。バスディーポは、ありとあらゆるバスが40ラインも発着する超巨大バスターミナルなのだったのです。のんびりしたアトランタから来ると、周りにいる人たちもちょっと怖く思えました。バスディーポの外にも、なかなか足を踏み出せません。
途方にくれているとき思い出したのは、あの紙切れ。さっそく藁にもすがる思いで、電話をかけてみました。受話器の向こうからは、明るい日本語が返ってきました。「初めてのニューヨークで、バスディーポは心配ですね」
彼の指示で一旦電話を切った後、又電話をすると、ある地下鉄の駅の名前を言い、行き方を丁寧に説明してくれました。「その駅まで僕の女性マネージャーが迎えに行くから、彼女の家に泊めてもらうといい。本人がそう言っているから」
彼はニューヨーク及びメイン州を中心に活躍している日本人ピアニストで、マネージャーはお金持ちのアメリカ人の奥様でした。結局、忙しいピアニストには一度も会わずに、マネージャーの邸宅に一週間も泊めてもらい、ご主人の経営する会社のパーティにも招かれました。
マネージャー氏は新人音楽家を発掘するオーディションにも、車に私を乗せて連れて行ってくれました。途中で帰るとき、若い音楽家が必死で言った言葉が忘れられません。「僕の演奏を聞かずに帰らないで!」
アメリカには日本の物差しで計ることのできない日本人がいます。そして、見知らぬ他人を一週間も歓待してくれる大らかなアメリカ人も……

メイン州に住んでいるというその人は、「ニューヨークに行って困ったことがあれば、ここに電話をするといい。友達のピアニストで、とてもいい人だから」と言って、電話番号を書いた紙をくれました。たった五分間の知り合いなのに、親切なこと。
ニューヨークにバスが到着して驚きました。バスディーポは、ありとあらゆるバスが40ラインも発着する超巨大バスターミナルなのだったのです。のんびりしたアトランタから来ると、周りにいる人たちもちょっと怖く思えました。バスディーポの外にも、なかなか足を踏み出せません。
途方にくれているとき思い出したのは、あの紙切れ。さっそく藁にもすがる思いで、電話をかけてみました。受話器の向こうからは、明るい日本語が返ってきました。「初めてのニューヨークで、バスディーポは心配ですね」
彼の指示で一旦電話を切った後、又電話をすると、ある地下鉄の駅の名前を言い、行き方を丁寧に説明してくれました。「その駅まで僕の女性マネージャーが迎えに行くから、彼女の家に泊めてもらうといい。本人がそう言っているから」
彼はニューヨーク及びメイン州を中心に活躍している日本人ピアニストで、マネージャーはお金持ちのアメリカ人の奥様でした。結局、忙しいピアニストには一度も会わずに、マネージャーの邸宅に一週間も泊めてもらい、ご主人の経営する会社のパーティにも招かれました。
マネージャー氏は新人音楽家を発掘するオーディションにも、車に私を乗せて連れて行ってくれました。途中で帰るとき、若い音楽家が必死で言った言葉が忘れられません。「僕の演奏を聞かずに帰らないで!」
アメリカには日本の物差しで計ることのできない日本人がいます。そして、見知らぬ他人を一週間も歓待してくれる大らかなアメリカ人も……
