マグレブ三国を旅したとき、最初に入ったアルジェリアが気に入り、三番目に行ったモロッコからアパラティア山脈をバスで越えて又戻ってきた。
「あるのはサハラ砂漠だけなのに何故アルジェリアが好きなのだ」と聞かれたら、「人が素朴で優しいから」と答えることにしている。例えば……
赤い砂漠のオアシス、ティミムーンで素晴らしい2日間を過ごした後、一日一本しかない明け方のバスに乗ろうと予定の時刻前にバス停に行った。バスは来なかった。次の朝、暗いうちからバス停で待った。バスは来なかった。
3日目の朝、やはりバスが来ず、私は日本語で喚いた。するとバス停の前の家のおじさんが出てきたので、身振り手振りで3日もバスが来なかったことを伝えた。おじさんは家の中に入り、又出てきた。身振りで「待て」と言う。
しばらくすると、トラックがやってきた。荷台に向かい合わせにベンチが置いてあり、目だけ出してターバンや布で頭と顔を覆った男たちが十数名乗っていた。おじさんの合図で、私は荷台に引っ張り挙げられた。
トラックはフルスピードでサハラを走る。目だけ出した男たちは無言のまま、三十分位走ってトラックは止まった。そこには、バスが待っていた。トラックの運転手にお金を払うと言うと、笑顔でいらないというジェスチャーをした。
私を下ろすと、男たちを乗せたトラックは元来た道をフルスピードで戻って行った。大人数で私を送り届けてくれたのだ。アルジェリア人は信頼できると分かっていたからトラックに乗れたのだ、『君子危うきに近寄らず』の私が。
又、あるとき民家で道を訪ねると、バスが来るまで時間があるから「まあ、上がれ」と言う。近所中の人が集まってきて、(イスラム教徒なので酒も飲まずに)おじさんたちが輪になって踊り狂った。『踊るマハラジャ』も唖然とするくらいの芸達者ばかり。文字通り、空いた口が塞がらなかった私。
今度のテロリストの襲撃事件、悲しんでいるアルジェリア人は多いと思う。一日も早く、安心して旅のできる元のアルジェリアに戻ってほしい。アルジェリアは優しかった。