憧れのスターに「もういいから」と言われた私
法律の勉強をしながら、目黒にある高級洋菓子店でバイトをしていた頃のお話。コーヒーも飲めるようになっている店には、時々スターが顔を見せた。
高級を押し通している店では、もちろん皆知らん顔をして、コーヒーとケーキを有名人に運んでいた。店長に嫌われていたがさつな私は、ケーキを包む役しかもらえなかった。
あるとき、ドアを開けて入ってきた男性を見てひっくり返りそうになった。大洋(仮名)だった。彼は一人でテーブルにつき、コーヒーをオーダーした。えらいことだ、ケーキなど包んでいる場合ではない。
すっ飛んでいくと、同僚が運びかけていたコーヒーの載ったトレイをひったくり、憧れの君にコーヒーを運んでいった私。
その後もケーキを入れたショーケースの後ろから様子を見ていて、一杯目を飲み終わる頃には、二杯目を持って行った。そして、今度は三杯目を……
テーブルに三杯目のコーヒーを載せようとした私に、彼は言った。「もういいから」 危なくのけぞりそうになった。
あれから長い年月がたつが、大洋の歌を聴くといつも芋ずる式に思い出す。
あまったケーキやクッキーをもらって帰り、翌日語学クラスで配ったこと、司法試験に受かるんだと希望に燃えていたこと、等々。
「もういいから」と言われた頃の自分に戻れたら、果たして今度はどんな生き方をするだろう…… 創作意欲が湧いてきた。

高級を押し通している店では、もちろん皆知らん顔をして、コーヒーとケーキを有名人に運んでいた。店長に嫌われていたがさつな私は、ケーキを包む役しかもらえなかった。
あるとき、ドアを開けて入ってきた男性を見てひっくり返りそうになった。大洋(仮名)だった。彼は一人でテーブルにつき、コーヒーをオーダーした。えらいことだ、ケーキなど包んでいる場合ではない。
すっ飛んでいくと、同僚が運びかけていたコーヒーの載ったトレイをひったくり、憧れの君にコーヒーを運んでいった私。
その後もケーキを入れたショーケースの後ろから様子を見ていて、一杯目を飲み終わる頃には、二杯目を持って行った。そして、今度は三杯目を……
テーブルに三杯目のコーヒーを載せようとした私に、彼は言った。「もういいから」 危なくのけぞりそうになった。
あれから長い年月がたつが、大洋の歌を聴くといつも芋ずる式に思い出す。
あまったケーキやクッキーをもらって帰り、翌日語学クラスで配ったこと、司法試験に受かるんだと希望に燃えていたこと、等々。
「もういいから」と言われた頃の自分に戻れたら、果たして今度はどんな生き方をするだろう…… 創作意欲が湧いてきた。
